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臨床栄養学

19-18.55歳男性、バスの運転手、昼間の眠気を訴えて受診した。身長:165cm、体重:80kg、ウエスト周囲径:100cm、ウエスト・ヒップ比:1.2、空腹時血清AST:50IU/L、ALT:120IU/L、トリグリセリド200mg/dL、血圧:170/110mmHg、であった。予想される患者の所見で適切なのはどれか。
(1)血中CO2濃度の低下
(2)甲状腺機能の亢進
(3)肝臓の組織検査を行うと、肝硬変の所見が見られる。
(4)インスリン抵抗性
(5)ヘモグロビンの低値

19-19.問18の事例について、推察される患者の病態で正しいのはどれか。
(1)皮下脂肪型肥満
(2)内臓脂肪型肥満
(3)マラスムス
(4)ウェルニッケ・コルサコフ症候群
(5)粘液水腫

上半身肥満(BMI 29.4、ウエスト周囲100cm、ウエスト・ヒップ比1.2)の中年男性(55歳)
が昼間の眠気を訴えている。これだけの情報で「肥満が原因の睡眠時無呼吸症候群かな?」と思ってしまう。いつだったか、新幹線の運転手が居眠りをした事件がニュースになっていたが、あれと同じ状況だ。しかも、バスの運転手だ。睡眠時無呼吸症候群は、昼間に突然眠気が来て、無意識のうちに眠ってしまう病気だ。バスの運転中に寝てしまうと大変なことになるぞ。
その他のデータを見てみよう。まず肝機能検査でAST、ALTが増加している。しかも、ASTの上昇はわずかだが、ALTの上昇は中等度だ。この肝機能異常は何が原因だろうか。もちろんこれだけの情報では、慢性肝炎や肝硬変を完全に否定することはできないが、素直に考えて、一番可能性が高いのは脂肪肝ではないだろうか。肥満による脂肪肝はAST<ALTに、アルコールによる脂肪肝はAST>ALTになることが多いことを覚えておくといい。ちなみに、慢性肝炎から肝硬変に移行するときはALT優位からAST優位に変化する。この症例ではALT優位だし、他に慢性肝炎を疑わせるものは何もないから、脂肪肝と考えて差し支えないだろう。
次に、トリグリセリドと血圧が高い。ここまでデータがそろってくると、「ははーん、あれか」と思うだろう。もし、思わなければ勉強不足だ。そう、メタボリックシンドロームだ。メタボリックシンドロームは、肥大した内臓脂肪細胞から分泌される種々のサイトカインやホルモンにより、さまざま代謝異常が起こり、最終的に動脈硬化症が進展する病態だ。死の四重奏とも呼ばれているぞ。肥大した脂肪細胞から分泌される遊離脂肪酸やTNF-alphaはインスリンの働きを邪魔して、インスリン抵抗性を引き起こす。このインスリン抵抗性が糖尿病、高脂血症(高中性脂肪血症・低HDL-C血症)、高血圧を引き起こすと考えられている。インスリン抵抗性はメタボリックシンドロームの中心になる病態だ。

予想される患者の所見の選択肢を検討してみよう。
(1)のCO2濃度だが、肥満のために呼吸が妨げられると、CO2の排泄が抑制されるので血中CO2濃度は上昇するというのが正しい。(2)甲状腺機能の亢進を疑わせるものは何もない。(3)肝硬変は完全に否定できるわけではないが、上記の理由により脂肪肝と考えるのが妥当だ。(4)は正しい。これさえ見つければ、他の選択肢を見る必要はない。(5)貧血のために、脳の酸素不足が起こり、眠気が起こることはあるが、これを支持する検査所見はない。よって、正解は(4)である。

推察される患者の病態の選択肢を検討してみよう。
上記の考察から、(2)を選ぶのは簡単だろう。他に迷いそうなものはない。ちなみにマラスムスはPEMの1種である。ウェルニッケ・コルサコフ症候群はビタミンB1欠乏症である。粘液水腫は甲状腺機能低下症の症状で、肥満になるが、これを疑わせる所見はない。
by kanri-kokushi | 2005-10-17 16:36 | 第19回国家試験 | Comments(0)