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臨床栄養学

29-128 静脈栄養法に関する記述である。正しいのはどれか。1つ選べ。
(1)生理食塩液のナトリウム濃度は、154mEq/Lである。
(2)高カロリー輸液製剤には、クロムが含まれる。
(3)中心静脈栄養法と経腸栄養法は併用できない。
(4)脂肪乳剤は、末梢静脈から投与できない。
(5)ビタミンB1欠乏では、代謝性アルカローシスを発症する。

(1)○ 生理食塩液のナトリウム濃度は、154mEq/Lである。
 生理食塩液の濃度は、0.9%である。つまり、1Lの生理食塩液には9ℊの食塩が溶解している。食塩の分子量は58.44なので、モル濃度で表すと9÷58.44=0.154(mol/L)=154(mmol/L)である。食塩1(mol)は、水溶液中でナトリウム1(mol)と塩素1(mol)に解離する。だから、生理食塩液中のナトリウム濃度は154(mmol/L)である。当量(Eq)=モル濃度(M)×価数であり、ナトリウムの価数は1なので、血漿中のナトリウム濃度を当量で表すと154×1=154(mEq/L)である。ちなみに、Eqは、当量の意味の英語Equivalentの略である。

(2)× 高カロリー輸液製剤には、クロムが含まれる。
 TPN基本液には、電解質としてNa、K、Ca、Mg、Cl、Zn、Pが含まれている。また、わが国で市販されている微量元素製剤には、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素、鉄の5元素が含まれている。高カロリー輸液製剤には含まれていないが、長期間静脈栄養を行うと欠乏する可能性がある微量元素として、コバルト、セレン、クロム、モリブデンがあるので、これらは適宜経口投与する必要がある。

(3)× 中心静脈栄養法と経腸栄養法は併用できる。
 合併症などにより経腸栄養法だけで必要エネルギーを投与できない場合は、中心静脈栄養法を併用して必要エネルギーを確保することができる。

(4)× 脂肪乳剤は、末梢静脈から投与できる。
 高カロリー輸液製剤を末梢静脈から投与できない理由は、高濃度グルコースによる浸透圧が高いことが血管痛や静脈炎を起こすからである。脂肪乳剤は、大豆油を原料とし、卵黄レシチンで乳化し、グリセリンで等張化しているので、末梢静脈から投与できる。

(5)× ビタミンB1欠乏では、代謝性アシドーシスを発症する。
 ビタミンB1は、ピルビン酸脱水素酵素(ピルビン酸からアセチルCoAを生成)やαケトグルタル酸脱水素酵素(αケトグルタル酸からスクシニルCoAを生成)の補酵素である。ビタミンB1が不足すると解糖で生じたピルビン酸はクエン酸回路や脂肪酸合成に入って行けないので、細胞内に蓄積する。その結果、解糖も停滞してATPを産生できなくなる。この事態を回避するため、乳酸脱水素酵素の作用でピルビン酸を乳酸に変換する。ピルビン酸は細胞膜を通過できないが、乳酸は通過できる。乳酸脱水素酵素の作用で解糖の基質であるNAD+が再生されるので、解糖を進行させることができる。これを嫌気的解糖という。乳酸アシドーシスとは、血液中の乳酸濃度が一定限度(5mEq/ℓ)以上に上昇して、血液の緩衝作用を超えるためにpHが低下することである。ビタミンB1不足では、嫌気的解糖が進行して乳酸産生が増加し、血液中に多量の乳酸が放出されることにより、乳酸アシドーシスが出現する。静脈栄養時には、乳酸アシドーシスを予防するためにビタミンB1を3㎎/日を投与する必要がある。

正解(1)
by kanri-kokushi | 2015-12-25 17:15 | 第29回国家試験 | Comments(0)