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人体の構造と機能及び疾病の成り立ち

30-24 疾患に伴う変化に関する記述である。正しいのはどれか。1つ選べ。
(1)心停止は、脳死の判定に含まれる。
(2)浮腫は、血漿浸透圧が上昇すると生じる。
(3)肥大は、組織を構成する細胞の容積が増大する現象である。
(4)肉芽組織は、炎症の急性期に形成される。
(5)肉腫は、上皮性の悪性腫蕩である。

(1)× 心停止は、脳死の判定に含まれない。
 死とは、呼吸機能、循環機能、中枢神経機能が不可逆的に停止した状態をいう。心臓死の判定は、死の三徴候によって行われる。死の三徴候とは、①呼吸の停止、②心拍動の停止、③瞳孔散大である。脳死とは、呼吸機能と循環機能は保たれているが、中枢神経機能が不可逆的に停止した状態をいう。循環機能は保たれているので、心停止は起こしていない。呼吸機能は、脳幹機能が呈しているので自発呼吸はないが、人工呼吸器により保たれている状態である。

(2)× 浮腫は、血漿浸透圧が低下すると生じる。
 毛細血管と間質組織の水の移動を決定する要因は、毛細血管内の血圧(静水圧)と血漿浸透圧である。毛細血管圧は、血管内から血管外へ水を押し出す圧力であり、動脈側で高く、静脈側で低い。血漿浸透圧は、血漿たんぱく質(特にアルブミン)により生じる圧力であり、膠質浸透圧ともいう。血漿浸透圧は、血管外から血管内に水を引き込もうとする。血漿浸透圧は、動脈側の毛細血管圧と静脈側の毛細血管圧の間にあるので、水は毛細血管の動脈側では血管外に押し出され、静脈側では血管内に引き込まれる。こうして間質の水は循環する。浮腫とは、間質の水が異常に増加した状態なので、血管が出でてくる水の量が、血管内に引き込まれる水の量より多いときに出現する。血管外に出る水の量が多くなる主な要因は、動脈圧の上昇と循環血液量の増加である。血管内へ引き込む水の量が少なくなる主な要因は、静脈圧の上昇と血漿浸透圧の低下である。

(3)〇 肥大は、組織を構成する細胞の容積が増大する現象である。
 肥大とは、臓器や組織が、正常な構造や形を損なうことなく、正常以上に大きくなることをいう。この時、細胞数は増加することなく、細胞の容積が増大する。これに対して、細胞の容積は変わらないが、細胞数の増加に伴って臓器・組織の容積が増加することを過形成という。

(4)× 肉芽組織は、炎症の慢性期に形成される。
 炎症とは、局所の組織細胞障害や作用した障害因子に対する生体の局所的防御修復反応である。急性炎症とは、障害に対し迅速に反応が起こる炎症であり、典型的には発赤、熱感、腫脹、疼痛が出現する。主に微小血管反応が主体で、血流の増加、血漿たんぱく質の滲出、好中球を主体とする白血球の浸潤が特徴である。通常は、短期間のうちに炎症反応は終息し、痕跡を残さず治癒することが多い。一方、慢性炎症は、数週間から数か月にわたり炎症反応が継続するもので、リンパ球を主体とする白血球の浸潤が出現する。慢性炎症の病巣ではマクロファージが活性化され、周辺の組織の破壊、免疫担当細胞の動員、線維芽細胞・新生血管の増殖など反応が起こって肉芽組織を形成する。肉芽組織は、最終的には細胞成分が減少し、瘢痕化する。血管新生は、慢性炎症において肉芽組織ができたり、線維化が進んだりするときに必要になるものなので、炎症原因物質の刺激直後の急性炎症では起こらない。

(5)× 肉腫は、非上皮性の悪性腫蕩である。
 腫瘍とは正常な体を構成する細胞から発生する組織の異常増殖である。腫瘍は、実質(腫瘍細胞)と間質(腫瘍細胞が増殖するのに必要な足場、栄養、酸素などを供給する)からできている。間質は正常な細胞からできているので、腫瘍の増殖は間質を介して宿主に完全に依存している。一般に「癌」は悪性腫瘍全般を指し、「癌腫」は上皮性悪性腫瘍を、「肉腫」は非上皮性悪性腫瘍を指す。臨床的には予後が良好なものを「良性(benign)」、不良なものを「悪性(malignant)」とする。病理組織学的には、増殖様式により圧排性増殖のみを示すものを「良性」、浸潤性増殖を示すものを「悪性」とする。

正解(3)
by kanri-kokushi | 2016-07-05 15:33 | 第30回国家試験 | Comments(0)