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人体の構造と機能及び疾病の成り立ち

32-27 腸疾患に関する記述であるの正しいのはどれか。1つ選べ。

1)潰瘍性大腸炎では、大腸がんのリスクが高まる。

2)クローン病では、肛門病変はみられない。

3)過敏性腸症候群では、粘血便がみられる。

4)たんぱく漏出性胃腸症では、高アルブミン血症がみられる。

5)麻痺性イレウスでは、腸管蠕動運動の亢進がみられる。


腸疾患に関する基本的知識を問う問題である。

1)〇 潰瘍性大腸炎では、大腸がんのリスクが高まる。

2)× クローン病では、肛門病変がみられる。

3)× 過敏性腸症候群では、粘血便がみられない。粘血便が見られるのは、潰瘍性大腸炎である。

4)× たんぱく漏出性胃腸症では、低アルブミン血症がみられる。

5)× 麻痺性イレウスでは、腸管蠕動運動の低下がみられる。


正解(1


潰瘍性大腸炎について、まとめておこう。

潰瘍性大腸炎は、原因不明の大腸粘膜のびまん性非特異性炎症性疾患である。慢性に経過し、寛解と再燃を繰り返す。2030歳台に多く、男女比は11である。主として粘膜と粘膜下層が侵され、びらん、潰瘍、陰窩膿瘍を形成する。病変は、直腸に留まるものもあるが、連続性に大腸全体に進行することもある。原因は不明であるが、腸管免疫担当細胞の機能異常が指摘されている。家族内発生が報告されており、何らかの遺伝因子が関与していると考えられている。

症状の特徴は、粘血膿便、下痢、腹痛、発熱、体重減少などである。

腸管合併症としては、大腸癌、大腸穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症などある。腸管外合併症としては、関節炎、皮膚炎、肝臓の脂肪変性,胆管炎などがある。

薬物療法は、サラゾピリン(もともと慢性関節リュウマチの治療薬として開発された消炎鎮痛剤、大部分が吸収されることなく大腸に達し、腸内細菌によりサルファピリジン(SP)と5-アミノサリチル酸(5-ASA)に分解される)、ペンタサ(サラゾピリンの有効活性成分5-ASA製剤)を使用する。食事療法の原則は、易消化性、高エネルギー、高たんぱく、低脂肪、低線維食である。その他、白血球除去療法、外科的治療が行われることがある。


クローン病について、まとめておこう。

クローン病は、原因不明の消化管の肉芽腫性炎症性疾患である。慢性に経過し、寛解と再燃を繰り返しつつ、徐々に進行する。1020歳代の男性に多く、男女比は231である。病変は、区域性で単発あるいは多発する。口腔から肛門までいずれの部位でも起こりえるが、回盲部(約50%)、結腸、直腸、肛門(35%)、小腸、上部消化管(15%)が多い。病理学的には、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が特徴的で、小腸、大腸に非連続的に広がる。腸管粘膜病変としては、縦走潰瘍、敷石像、飛び越し病変を形成する。病変は粘膜にとどまらず、筋層、漿膜に、さらに腸管周囲の脂肪組織まで及び、他臓器との瘻孔を形成する。細菌や食事抗原により刺激されたマクロファージが分泌するTNF-αにより炎症が引き起こされる。家族内発生があり、何らかの遺伝因子に、高たんぱく食、高脂肪食、腸内細菌叢の異常など環境因子が加わって発症すると考えられている。

症状の特徴は、腹痛、下痢、肛門病変、下血、発熱、体重減少などである。腸管合併症として、腸管通過障害、瘻孔、出血、腸穿孔があり、腸管外合併症として口内アフタ、皮膚炎、関節炎、胆石症、尿路結石がある。

栄養療法の原則は、成分栄養療法である。食事療法を行う場合は、易消化性、高エネルギー、低たんぱく、低脂肪、低線維食とする。たんぱく質を制限する理由は、食餌性抗原の負荷を軽減するためである。活動期では、経腸成分栄養または中心静脈栄養により寛解導入する。寛解期では、寛解導入後、普通の経口食に戻すと高率に再発するので、在宅経腸成分栄養(自己挿管法)を行うのが原則である。その後、再燃しないことを確かめながら少しずつ経口食に移行する。乳糖不耐症を合併していることが多いにで、牛乳、乳製品は原則として禁止する。

薬物療法では、サラゾピリン、ペンタサ(5-アミノサリチル酸製剤)、副腎皮質ホルモン、免疫抑制剤、抗TNF-α抗体製剤などを使用する。TNF-αは、マクロファージやリンパ球などの免疫担当細胞から分泌されサイトカインの一種である。抗TNF-α抗体製剤は、血液中のTNF-αに結合して中和するだけでなく、免疫担当細胞に結合してTNF-αの産生を抑制する作用がある。

栄養療法・薬物療法が無効のときは、外科的治療を行うことがある。


過敏性腸症候群ついて、まとめておこう。

腸管の機能的な過敏性を特徴とし、腸管の運動、緊張、分泌が亢進する結果、大腸内容物を移動させるための蠕動運動、協調運動がうまくできなくなり、便秘や下痢をきたす疾患で、器質的な病変を同定できないものいう。原因不明で、内臓知覚過敏、心因性ストレス、自律神経失調症などが考えられている。

症状により、下痢型(大腸全体が細かく痙攣して筒状になり、便の通過が早くなる)、便秘型(S状結腸の運動が亢進して内圧が上昇し、便の通過を阻害する)、交代型(便秘と下痢を繰り返す)に分類される。便秘、下痢、腹痛、腹部膨満など消化器不定症状に加えて、頭痛、易疲労感、動悸、手足の冷えなど自律神経症状を伴うことが多い。消化・吸収障害はなく、栄養障害は起こらない。診断のためには、便潜血検査、胃透視、注腸検査などにより器質的疾患を除外する必要がある。


たんぱく質漏出性胃腸症について、まとめておこう。

血漿中のアルブミンが、胃や腸管の粘膜から管腔内に漏出し、低アルブミン血症をきたす症候群である。

たんぱく質が漏出するメカニズムとしては、腸リンパ管の異常(腸リンパ管の異常によりリンパ液の漏出)、腸リンパ拡張症(うっ血性心不全、クローン病)、毛細血管透過性亢進(毛細血管の透過性亢進によるタンパク質の漏出増加)、アレルギー性胃腸炎(セリアック病、膠原病)、消化管の潰瘍形成(潰瘍からの出血や血漿の滲出、消化管の癌、感染性腸炎、炎症性腸疾患、メネトリエ病、セリアック病)がある。セリアック病は、小麦たんぱくのグルテンに対するアレルギー性腸炎であり、腸粘膜の萎縮により吸収面積の縮小が起こる。メネトリエ病は、巨大肥厚性胃炎とも呼ばれ、胃粘膜のヒダが巨大になり大脳回のような肉眼所見を示すものをいう。

症状は、低アルブミン血症による全身の浮腫、胸水・腹水の貯留や、脂肪の吸収障害による脂肪便テタニー(低Ca血症によるけいれん)が特徴である。未消化の脂肪はCaと不溶性の塩を形成し、Caの吸収を阻害する。


by kanri-kokushi | 2018-12-07 09:54 | 第32回国家試験 | Comments(0)