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応用問題

 62歳男性、身長165cm、体重60kg、38歳のときに交通事故のため輸血を受けた。50歳のときにC型肝炎ウイルス感染による肝障害を指摘され治療を受けた。食欲不振や意識障害はなく、腹水と黄疸は認められない。血液生化学検査結果では、AST 50 IU/L、ALT 40 IU/L、アルブミン値3.2g/dL、γ-グロブリン分画は26%、α-フェトプロテインは検出限界以下、フィッシャー比は2.5であった。更に、肝臓の生検では肝組織の著明な線維化と偽小葉を認めた。
20-195.本症の病態として正しいのはどれか。
(1)慢性活動性肝炎
(2)代償性肝硬変
(3)非代償性肝硬変
(4)脂肪肝
(5)肝細胞癌

 偽小葉とは、肝臓の線維化が進み、肝細胞の壊死と再生が繰り返されて、肝臓本来の小葉構造とは異なるけど、一見小葉のように見える構造のことをいう。肝臓の生検で著明な線維化と偽小葉を認めたということは、すでに慢性肝炎から肝硬変に進行していると考えてよい。よって、(1)と(4)は除外される。(5)の肝細胞癌が合併している可能性を完全に除外することはできないが、問題の意図として、「α-フェトプロテインは検出限界以下」と書いているということは、肝細胞癌のことは考えなくていいということだろう。残りは「代償性」か「非代償性」か、ということだ。代償性とは、肝臓の残りの機能で何とか肝臓としての機能を維持している状態で、非代償性とは、維持できなくなった状態をいう。ということは、非代償性肝硬変では肝臓の機能が低下するために起こる症状が現れるということだ。肝臓の機能は、ビリルビンを排泄すること、血清アルブミンを作ること、アンモニアから尿素を作ることなどだから、非代償性になると血清ビリルビン値が上昇して黄疸が出現し、アンモニアが蓄積して高アンモニア血症肝性脳症が出現し、低アルブミン血症になって浮腫腹水が出現する。この患者さんの場合、血清アルブミン値が3.5g/dLをきっている以外に、非代償性を疑う症候は認められないので代償性肝硬変と診断する。

正解(2)

20-196.本患者の栄養管理法として正しいものの組合せはどれか。
a エネルギー摂取量は標準体重kg当たり35kcalとする。
b たんぱく質を標準体重kg当たり1.2g摂取する。
c 分枝アミノ酸摂取を制限する。
d 食物繊維の摂取量を制限する。
(1)aとb(2)aとc(3)aとd(4)bとc(5)cとd

 フィッシャー比とは分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)と芳香族アミノ酸(チロシン、フェニルアラニン)の比(基準値は2.43~4.40)のことで、肝硬変では低下する。よって、肝硬変症の治療として分岐鎖アミノ酸を補充することはあっても、制限することはない。
 食物繊維は便通を改善し、腸管でのアンモニアの発生を抑制する効果がある。よって、肝硬変症の治療として、食物繊維の摂取を勧めることはあっても、制限することはない。
 代償期肝硬変症の食事療法で、高エネルギー・高タンパク質食というのは一昔前の話で、現在では「日本人の食事摂取基準」を目安にするようになっている(「病態栄養専門師のための病態栄養ガイドブック」より)。それからすると、標準体重を維持しているこの患者さんには、エネルギーを35kcal/kg、タンパク質を1.2g/kgにするのは多すぎるように思われるが、他に適切な選択肢がないのでこれを正解にする。

正解(1)
by kanri-kokushi | 2006-08-10 14:37 | 第20回国家試験 | Comments(0)